2022年6月16日木曜日

美しい夏キリシマ

かつて映画館で「母と暮せば」を観て

その後「父と暮せば」が、こまつ座「戦後“命”の三部作」の一作と知って鑑賞。

で、その「父と暮せば」が映画監督 黒木和雄の「戦争レクイエム三部作」のひとつと知って

その三部作はなに?と、その中の一作がこの「美しい夏キリシマ」である。

終戦前の戦時下の九州霧島の農村が舞台である。

直接的な悲惨な戦争・戦いを表現するのではなく、
戦時下であればこんな農村の中にも戦争の影響が及ぼしてくることを
その日々を淡々と描くことで充分に知らしめてくれる。

そういう意味での「レクイエム」なのであろう。

それにしても、九州での本土決戦に備える軍隊や住民。
竹やりで戦おうとするも、銃で戦おうとするも
そんなことでしか戦う覚悟が示せなかった哀しさ。

それでも当時は、それが全てだったのだろう。

何かどうしようもない複雑な思いにとらわれる。

全編、夏の画面がとても美しい。

そこは、確かにタイトル通りでもある。

けれど“美しい”と表現するのは、そんな美しさだけではあるまい。


 
P.S

画中にカラヴァッジョの「キリストの埋葬」の絵が出てくる。

何も知らない女中の女の子が絵について素朴に尋ねる。

キリストは、天皇陛下よりも偉いかどうか、を。

米国にとっても日本にとっても、どちらも神扱いの存在ということが
なんとも複雑だ。

しかもキリストのみすぼらしさを不思議がる。

どちらがいいとか悪いとかではなく、

なんとも両国にとっての価値観・世界観の違いを感じさせられたりもした。