2023年6月10日土曜日

喰人鬼の噴水

先日、立原えりかをほぼほぼ半世紀ぶりに読んでその余りの懐かしさに、思わず次の一冊を本棚から引っ張り出して読んでしまった。

私の本棚に数多く並ぶ立原えりかの本の中から、なぜこの一冊を選んだかと言えば、

半世紀経っても、やはり私の記憶に強烈に刺さっている一冊だからで。

# まぁ、古い本だからネタバレは許されるよな。

小さな村の少女が、一匹のユニコーンと出会う。
だが、彼は魔法で不老のユニコーンにされてしまった若者だったのだ。

毎月、彼は月末の最後の3時間だけ人間に戻ることが出来た。
少女は、彼を愛し、やがて森で一緒に住み始める。
そして、彼の魔法を解くという木の実を求めて雪山に冒険に出るのだ。

しかし、やっとの思いで見つけ出すものの、
木の実を目の前にして食べようとする瞬間、彼は雪崩に埋まってしまう。

木の実を食べて人間に戻ってしまったのであれば、この雪崩では助からない。
もしまだ食べていなかったとしても、この万年雪の雪崩の中からは出てこられないだろう。
彼女は、彼を諦め、普通の人間の生活に戻ってゆく。

何十年も経った時、彼女は懐かしさにスイスのベルンの喰人鬼の噴水を訪れる。
昔、何があってもそこで待ってるという彼の約束を思い出して。

そして、車でそこを通りかかると、かつて彼女が渡したフルートを持った若者が立っていたのだった。

けれど彼女は、そのまま通り過ぎてゆく。
 
若者はわたしをみつめて、ほほえんだようでした。大きく見ひらかれた目に、
とまどいとかなしみの色がうかんでいました。
若々しいくちびるは、「これでいいのだよ」とささやいているようにおもわれたのです。

――――――

最後の3行は、そのまま原文を引用してしまった。

純真な若者たちの恋、ファンタジックな日々、そして、時空を超えた出会い、、、
私に強烈な記憶を焼きつけた。

高校生の時に読んだであろうこの一冊は、その後、地元を離れ大学に行き
読み返すことなく本棚の一冊になった。

けれど、もう一度あの物語をちゃんと思い出そうと、半世紀ぶりに読んだ。
読んでいた数時間は、私は間違いなく高校生に戻っていた。
私とこの本との出会いは、まるで彼らの再会のように時空を超えたものとなった。



P.S

もう、この物語は、私は死ぬまで忘れない。

これも、私の終活である。