2006年8月1日火曜日

ある犬の思い

7年前、ある犬が飼い主を見つけて飼われることになった。
 
初めて会った飼い主は、とてもやさしく、いつもかまってくれた。
どこに行くのも一緒だったし、躾もしてくれたし、よく世話もしてくれた。
その犬は、今までなかったそんな毎日の出来事がとても幸せだった。
 
2年ほど経った時、その犬は決心をした。
この飼い主の為に自分の人生(犬生)を賭けよう、と。
いつも飼い主を見守り、危ない時には助け、飼い主の言うことは何でも聞こう。
そう誓ったのである。
 
飼い主は、面白がって、その犬の前にエサを置きながらも”おあずけ”をしたりする。
空腹の為によだれが止まらなくとも、最愛の飼い主の命令を守っていると思えば、
どんな長い時間も待てるような気がした。
 
1年ほど前にもう1頭の犬が一緒に飼われることになった。
最初、ライバルの出現か?とも思われたが、別に飼い主と別れるわけではない。
今の幸せが続けば、それでいいと思った。
 
ところが、そんな気持ちを維持できないことが起こり始めた。
飼い主は、最初、2頭に同じ扱いをしていた。それも不満ではなかった。
けれど、こんなことがあった。
いつもと同じようにエサが目の前に置かれる。
飼い主は、いつものように”おあずけ”の命を2頭に与える。
その犬は、いつものようにその命を忠実に守って、静かに待つ。
ところがもう一方の犬は、そんな躾はない。
飼い主が「おあずけ!」と言っても、そんな言葉にかまわずエサにありつくのである。
そして、その時、飼い主はその犬に向かって言うのである。
「”おあずけ”も出来ないの?仕方ないねぇ、、、。」そう言いながら、
飼い主は、エサにパクつく犬の毛並みをいとおしいそうになでたりしている。
もはや、もう1匹に”おあずけ”の解除をするのも忘れ、
その飼い主は、エサを食べている犬の方を可愛がっている。
その犬は、エサを前に手を出すこともなく、ひたすら待っている、、、
 
が、犬はフト思う。
自分が今、守っているものは何なのだろう?
飼い主が私に対して行っている行動は、何なのだ?どんな意味があるのだ?
今まで、何も考える必要のなかった思いが、次から次へと浮かんでくるのだった。
 
今、犬は迷っている。
飼い主を換えたい?
いや、そんな必要はない。今までどおりで充分満足のはずだ。
 
もし、この飼い主から逃げてしまったら、追いかけてきてくれるのだろうか?
取り戻そうとしてくれるのだろうか?
その犬は、逃げる先の宛てもないまま、いろいろな思いを小さな頭の中で駆け巡らせている。
 
P.S
私は思う。
誰が悪いのか? 自分はどうするべきなのか?
正直言って、私にもわからない。
 
ただ、私はその犬を不憫に思う。
何とか、何か、助けてあげたいと思う。
 

 

PM 09:20:11