2016年3月21日月曜日

歳を取ったもんだ


私と母は、毎週日曜日外でランチを取る。

ほとんど毎週同じ店に行くのだけれど

痴呆気味の母にとっては、毎回が新鮮だ。

「今日は、何が食べたい? お寿司?ステーキ?和食?それともトンカツ?」

そう尋ねると、母は決まってこう言う。

「トンカツが好きだけれど、しばらく食べてないからトンカツがいい」

そして、いつもと同じ経路を通り、いつものお店に。

お店の人は、お水とおしぼりを持ちながら

「お母さんは、いつものトンカツね。息子さんは?」

私は、なんとか前回と違うモノを頼もうとするのだけれど、

所詮、ハンバーグ2種とエビフライ定食の三種択一であれば、

あまり母のことを笑えないかも。

一瞬で終わってしまうオーダーのせいもあって、

母にはオーダーした記憶が残らない。

「まだ頼んでないよね。」「もう頼んだよ。」

目の前にトンカツが運ばれてくるまで、その会話を何度も繰り返す。

けれど、母は、トンカツを食べだすとまたこうも言うのだ。

「ここのトンカツは、ほんとおいしいよね。」

食欲自体は、健在だ。

トンカツ二切れほどを私に渡しながらも

一人前のご飯はきれいに平らげる。

食べている間は、世間話も何もほとんどしないのだけれど、

少なくとも母と私の時間が静かに通り過ぎてゆく。


P.S

食後、コンビニに立ち寄ってアイスクリームを買う。

母が食べるのは、いつもPinoだ。

公園の脇に車を止め、遊ぶ小さな子供たちを眺めながら、アイスをほおばる。

「アンタもあんな時があったんだろうかねぇ。思い出せないねぇ。

 アンタは憶えてる?」

「当の本人は、小さくてほとんど憶えていないものでしょ。

 そういうのを憶えているのは、大人の役目。」

そんな皮肉で私は応える。

「しかし、人生は短いわねぇ」「ほんとそうだね。」

公園のシーンを見ながら、6粒のPinoを食べ終わるまで、

同じ会話を何度も何度も何度も繰り返す。

そんな会話が苦痛にならなくなった自分もちょっぴり不安だけれど、

人生の終着点の近くにお互い居れば、

そんな会話で充分な気がしたりもして。

私も歳を取ったものである。