2005年4月30日土曜日
あなたがこの国の指導者だったとする。
魔神の誘惑-生け贄と見返り
あなたがこの国の指導者だったとする。
ある夜枕元に魔神が現れてこう言ったとする。
「お前が毎年1000人の国民の命を差し出すと約束すれば、国を繁栄させ、
すべての国民が豊かな暮らしをできるようにしてやろう」。
あなたは約束に応じるだろうか
(問題を単純化するために、魔神は必ず約束を守るということにする)。
おそらく多くの人は、生け贄という発想そのものを拒否するのではないかと思う。
このような取引に応じた指導者は国民の支持を失うに違いない。
さて、ここで問題を出そう。日本では毎年8000人以上の人が交通事故で命を失っている
(ただし2003年の交通事故死者数は7702人。46年ぷりに8000人を下回った)。
われわれは、自動車の便利さと引き換えに、8000以上の人命を犠牲にしているのだ。
魔神に生け贄を捧げるのとどれほど違うだろう?
比較してみると、魔神の申し出を受け入れるほうが交通事故を受け入れるよりもはるかに有利であることがわかるはずだ。
魔神が要求しているのは1000人の命であり、
交通事故で失われる人命よりはるかに少ない。
また、魔神はすべての国民を豊かにすることを約束するが、
自動車ではそういうことは保証されない。
われわれは、魔神との取引よりも、
もっと悪い条件で人命を犠牲にしているのではないだろうか。
「おろかもの」の正義論 小林和之著 ちくま新書 より引用。
P.S
著者に敬意を払い、あえて、全てをそのまま引用しました。
ただ、この本自体は、この部分の前にも後にも長く続く内容であるのに、
この部分だけを引用したことが、今、ここを読んだ読者と著者が伝えたいことに食い違いが起きるのではないか、、、と心配もあります。
そういう意味では、是非貴方にも読んでもらいたいな。
「正しい」ということの曖昧さ、自分の信じていることの不確かさ、
そんなことを改めて気付かせてくれる1冊であります。
読んだからといって、結論が出る訳ではありません。
でも、世の中の全てのことには、自分が見えない裏の部分が存在する。
そして、その見えない部分への思いやりが、
人間が小さな地球上で生きていくためには、とても大切なことに気が付かせてくれます。
是非貴方にも読んでもらいたい私からのお薦めの1冊です。
PM 08:55:36