2007年9月11日火曜日

堅い絆で結ばれた傘

京都二条の駅でのことである。

土砂降りの雨に遭遇してもうビショビショ。
小さな折り畳み傘を持っていたものの、
ちょっと外を歩いただけで、下半身はズブ濡れである。

ところが切符売場で思わぬことに気付いた。
私は、今から名古屋へ移動である。

ん?ひょっとして、急いで新幹線に乗れば、
この西から東への雨雲の移動を追い抜かせるのではないか?

# 単細胞な私の脳。

大急ぎで携帯で最も早く乗れそうな新幹線の予約をし、
その場でチケットをゲット。

で、改札に飛び込み、ホームに駆け上がる。
すぐに電車が来た、ラッキー!

と、その時、悲劇が訪れた。
傘を切符売場に忘れてきてしまったのである。

あ~~~~~~!

10年以上も共にした傘である。
電車は私の前でドアの口を開け、「さぁオマエはどうするんだ?」
と言わんばかりである。

この電車に乗らねば、予約した新幹線には間に合わない。
既に切符を発券してしまった以上、変更は出来ない。
心の中で「傘、ごめん!」と叫びながら、電車に飛び乗った。

車中、涙が出そうだった。
「ごめん、ごめん、、、」と思いながら、一方で、
「そろそろ買い換え時だったよな。」などと思ったのは、
決して薄情な思いではなく、自分への慰めだった。

新幹線の中でも哀しかった。
あの傘、今はどうしているのだろう?
せめて誰かに有意義に使われて、そのままずっと使われ続けるといいな、、、
せめてもの願いであった。

しかし、古いオヤジの考えることは哀しい。
一方的に傘を切り捨てたことが哀しい。
そもそも自分の落ち度じゃんさ。
傘に責任はない。

どうにも哀しくて、名古屋の改札口に出る時に、駅員に尋ねた。
「遺失物を専門に取り扱う窓口がありますので、そこに行けば大丈夫ですよ。」
やさしいひと言だった。

窓口に行った。
「はい、そこの用紙に記入しておいて下さい。」そう言われて
傘の特徴、落とし場所、見つかった時の送り先などを記入した。

「どうなるんですか?」
と聞くと、「見つかれば、着払いでお届けしますから。」
「だいたいいくらぐらいですか?」
「1000円ぐらいです。」
「よろしくお願いします。」
そう言って、窓口から外へ出た。

# 1000円なら、買った方が安かったな、とも思った薄情な私である。

2日後、傘が私の元へ帰ってきた。
うれしかった。

640円だった。
買い換えなくて良かったと思った。

出来ることならお互いの寿命まで、この傘と付き合おうと思った。


P.S

戻ってきた傘を手にした時、まだ湿っていたのは、

きっと傘も泣いていたにちがいないと思った。