歩道の交差点で信号が青になるのを待っている時、
# 他にも大勢居たのに何故か
乞食(あえてこの単語を使う。)が私に寄ってきて言った。
「1000円を恵んでくれんかね。」
一目見れば、その様相で、その人物の状態はわかっていた。
が、私は、何故か一瞬、言葉を失った。
何故かはわからないのだけれど、何も言えなくなった。
強い意志での肯定も否定も出来なくなっていた。
が、代わりに体が動いた。正確には、手が動いた。
手が手話で、彼に「ごめんなさい。」と言った。
彼と離れながら、複雑な思いがよぎった。
もし仮に彼に1000円を渡したら、彼はそれをきっかけに立ち直り、
今の彼の状態から脱するのではないか?
その可能性も0ではないはずだ。
ひょっとして、1000円が彼にとってのビッグバンにも成り得たのではないか?
何故か、そんな思いにとらわれてしまったのであった。
P.S
が、不思議に思う。
唐突な営業勧誘の電話なら、相手の言葉の途中でも平気で切ってしまえるような私である。
が、なぜ、今回は、そんな思いが湧いたのか?
きっと、それは、彼の様相せいかもしれない。彼の物の言い方のせいかもしれない。
何か私をそんな思いに陥れるオーラを放っていたような気がする。
もっとも、たぶんにこちら側の精神状態の原因の方が
遥かに影響がありそうなわけだけれど。